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札幌地方裁判所 昭和40年(行ウ)10号 判決

札幌市北二条東三丁目

原告

日本共産党札幌地区委員会

右代表者委員長

阿部勘吾

札幌市北三条西四丁目

被告

札幌中税務署長

谷地浩

右指定代理人札幌法務局訟務部検事

山本和敏

法務事務官 高田金四郎

大蔵事務官 鈴木馨

右当者事間の昭和四〇年(行ウ)第一〇号課税処分取消請求事件につき、当裁判所は昭和四〇年七月五日終結した口頭弁論にもとづき次のとおり判決する。

主文

本件訴を却下する

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告代表者は「札幌税務署長が昭和三九年一二月一四日付をもつて原告に対してなした入場税賦課決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として

一  昭和三九年七月二四日、札幌市民会館において、日本共産党創立記念集会が行われ、その際映画「戦斗的キユーバ」が上映された。右集会につき、札幌税務署長は原告に対し、同年一〇月二六日付文書をもつて入場税に関する申告書の提出を要求し、かつ同年一二月一四日付をもつて原告に対し、金六〇五〇円(無申告加算税五〇〇円を含む)の入場税賦課決定をなし、右決定は、札間消第二―一三〇号として同月二六日原告に送達された。

原告は、右決定に対し、昭和四〇年一月二五日、札幌税務署長に異議の申立てをしたところ、右税務署長はこれに対し、昭和四〇年四月二二日、「映画『戦斗的キューバ』の上映は、これを多数人に見せているものであるから、たとえそれが政治活動のためであつても入場税法の催物に該当する。」として、右異議申立てに対し、棄却の決定をし、これは、同月二三日原告に送達された。

原告は、昭和四〇年六月一日、右決定に対し、札幌国税局長に審査請求をしたが、同局長は、右審査請求が法定期間経過後のものであり、かつ遅れたことにつきやむを得ない理由を認めるに足りる証明もないとして、同年八月三日右審査請求に対し却下の裁決をし、これは、同月七日原告に送達された。

二  しかし、前記入場税賦課決定は、違法であり、札幌税務署長の原告に対する本件入場税の賦課処分は取り消されるべきである。すなわち

1  昭和三九年七月二四日、札幌市民会館において開催された日本共産党創立記念集会は、政党である原告がその本来の政治活動を行つたものにすぎない。政治活動の一環として行われた右集会を、入場税法上の「催物」と同一視することはできないし、また映画「戦斗的キューバ」の上映をとらえて右集会に入場税を賦課することは、政党本来の政治活動の自由を否定、抑制するものとして、違憲、入場税法違反の処分にあたる。

2  仮りに被告の主張するように、原告が「戦斗的キューバ」を主催上映したとしても、それについて原告に入場税を賦課することは違法である。

つまり、わが国の税制は、法律に明記されたもの以外に税を賦課し、徴収することはできない建前のものである。現行入場税法によれば、人格を有するもの(自然人および法人)のみを納税義務者と定めており、人格を有するもの以外のものに入場税を賦課する定めはないところ、原告が人格を有するものでないことは公知の事実である。

三  なお、原告の審査請求が法定期間経過後になされた理由は、当時、参議院議員選挙を目前に控え、繁忙のため、その手続きが遅れたものであり、これは、原告が法定期間内に審査請求をしなかつたことについてやむを得ない理由があるというべきである。

四  札幌税務署は、昭和四〇年七月一日から札幌中、札幌北、札幌東の各税務署に分かれ、本件賦課決定についての権限は、被告に承継されたので、原告は、被告に対し、本件賦課決定の取消しを求めるため、本訴に及ぶ。

と陳述した。

被告代理人は、本案前の抗弁として主文同旨の判決を求め、その理由として、「本件課税処分の取消しを求める訴は、国税通則法第八七条一項の規定により、審査請求についての裁決を経た後でなければ提起できないところ、原告から、その主張のような審査請求はあつたが、右請求は国税通則法第七九条の定める期間を徒過していたので訴外札幌国税局長はこれを不適法として却下の裁決をしたのであるから、本件訴は結局審査請求についての裁決を経ないで提起されたものに帰し、訴提起の要件を欠く不適法なものといわなければならない。」と述べ、

本案について「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として、「請求原因一および四の事実は認めるが、その余の事実は争う。」と述べた。

理由

まず本件訴の適否について判断する。原告の本件賦課決定に対する異議申立に対し、札幌税務署長が昭和四〇年四月二二日これを棄却する旨の決定をなし、これが同月二三日原告に送達されたこと、および原告がこれを不服として、同年六月一日札幌国税局長に審査請求をしたところ、同局長は、これを法定期間経過後の審査請求であることを理由に却下する旨の裁決をしたことは、当事者間に争がない。原告は右法定期間後に審査請求をした理由として、当時、参議院議員選挙を目前に控え、繁忙であつたことを主張するが、仮りに原告主張のような事情があつたとしても、そのような事情は国税通則法第七九条五項、第七六条三項にいわゆる「やむを得ない理由がある」場合には該当しないものというべきであるから、原告のなした右審査請求は不適法といわなければならない。したがつて、また、札幌国税局長がした右審査請求に対する却下裁決は、正当である

しかして、入場税賦課決定が違法であるとしてその取消しを求める訴は、審査請求についての裁決を経た後でなければ提起できないことは、国税通則法第八七条一項、第七九条三項により明らかであるから、前記審査請求を不適法として却下した札幌国税局長の裁決が正当である以上、本件訴は不適法であるといわなければならない(最高裁昭和三〇年一月二八日判決、民集九巻一号六〇頁参照)

よつて、本件訴を却下することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 柳川俊一 裁判官 丸山忠三 裁判官 岸本洋子)

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